青々としていた植物の葉のはしっこが少しずつ色付きはじめているのに気付きました。秋雨にぬれた朝なんて、ことさらに鮮やかです。今回は変わらないようで変わっていく、その変化を紙片で感じ、大切にされている同人誌です。

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●今回紹介する同人誌

北の大地の「きっぷ」に惹かれて 常備券に変わった駅へ』B5 28P 表紙カラー・本文モノクロ

著者:たかさご楓人

●北の地で変化は起こっていた。きっぷの移り変わりに着目

 こちらは北海道を走る鉄道のうち、総販前出し券方式で販売されていたきっぷが、2019年9月末で常備券方式での販売に切り替わったことに着目し、現地の駅を訪れて実際に購入したきっぷを比較しているご本です。

 わぁー! 電車には日常的に乗り、北海道を走る路線から車窓を楽しんだこともあるのに、まったく気付いていなかった用語がいきなり来ました! ご本を読んでいると、ある時期を境にきっぷが替わったということは理解できるのですが、もう少し理解を深めたところ、どちらもあらかじめ駅名や区間が印刷されたきっぷが複数用意してある点では同じですが、

総販前出し券……JR北海道専用のシステム「総合販売システム」で発券されたきっぷ

常備券……総販前出し券に比べると“紙そのもの”感が強くて、自動改札は通れない

……と解釈しました。北海道のみで使われていたきっぷ販売システムがあったことも知らず、それが実は2019年秋に廃止されていたことも初めて知ることでした。プリンタでその都度印刷できるきっぷから、“紙”のきっぷへ。ちょっとレトロな雰囲気に戻るような出来事に感じますが、ご本ではそれを称賛するでも非難するでもなく、現地を訪れた様子やきっぷの違いを淡々とつづられています。

●売り場もチェック。現場での購入エピソードが空気を伝える

 ご本では北海道の9つの駅と、そこで購入したきっぷが取り上げられています。駅舎の写真付きの駅情報、取り扱い乗車券についてなど、1つの駅につきおよそ2~3ページにまとめられています。駅紹介の「電報略号 ヨラ」など、自分ならきっと気に留めない情報がカバーされていて「ここはポイントなのですね!?」とちょっとしたこだわりにわくわくします。

 内容はもともときっぷに興味のある人向けの作りとなっているのですが、その中できっぷ売り場ときっぷ購入エピソードがぽっ、とやさしく浮かび上がってきました。駅ではきっぷの取り扱いが無く、売っているのは少し歩いた個人商店さんだったり、駅舎内に併設された食堂のカウンターで販売していたり。きっぷを購入すると「あんたで75番目ね」と話してくださる店員さん……。文中では「状況の確認」と、あくまできっぷの事情を知るための雑談と記されています。その情報収集メインだからこその落ち着いた文章の調子が、掲載された小さな駅舎、きっぷ売り場の写真と相まって、なんとも落ち着いた気分で、それでいて人の気配をきちんと感じるんです。常備券はこうして手から手へ渡されるものなんだ、と情景が浮かんでくるようです。

●小さな変化を見逃さない、地道で豊かな楽しみ方

 一見したときは、本文が白黒ページなこともあって、「きっぷって、そんなに違います?」と思ってしまいました。つまりは、列車に乗ることができればそれでいい紙だと。でもその手触り、文字……その小さな紙片が街の空気を伝えることがあるのですね。

 総販前出し券方式で購入したきっぷと当時の販売の様子、そして常備券になってからの現物と現場のレポートを、短いページにコンパクトに収められているのは、長く鉄道に乗り、細やかな目線で違いを追ってこられた方の、地道で、でもとても豊かな楽しみ方をされているゆえのお力ではないでしょうか。

 行ったことのない駅だけれど、人をつないで走る鉄道とその土地の暮らしの気配を、遠く離れた空の下で感じることができました。

サークル情報

サークル名:たかさごライナー

現在入手できる場所:メロンブックス、書泉グランデ(店頭販売のみ)

レビュー担当:みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

『北の大地の「きっぷ」に惹かれて 常備券に変わった駅へ』